ポッポ

急いだ。とにかく急いだ。
べ〜やん氏から例のブツが届くと言われていたのが今日。
親が受け取る前になんとしても帰宅せねばならない。
だが、今日は仕事が大忙しだった。
結局帰宅したのはPM10時を回っている。完全にアウトだ。


家に帰るとソレは私の部屋の真ん中に堂々と置かれていた。
11×44×75cmの巨大な箱。
その箱にはデカデカと『ポッポあややプレゼント』
『ポッポパジャマフリーサイズ』
の文字が
自信満々な感じで書かれてある。


そう。
この最強の武器(新品)をべ〜やんからお借りした。
名古屋で空を飛びたかった。ポッポになりたかったんだ。


私は家ではチョビひげが似合うダンディを演じている。
薄々気付かれてそうだが、それでも隠れヲタで通していた。
そんな息子宛てに突如送られてきたストームブリンガー(嵐の剣)。
親の気持ちは計り知れないが、これだけは譲れなかった。


緊迫した空気の食卓。地球で最も重力がかかった空間。
両者言葉を交わす事は無かった。先に言葉を発した方がヤラレル。
だが、いつまでも黙っていてはジリ貧だ。
この日、我が家にしては初めて“ゴーヤ”を使った料理があったので
これをキッカケに話を振った。


「ゴーヤはやっぱ苦いネー」とわたし。
「バターで炒めて抑えてるけどナー」と親。


一言だけのコミュニケーション。
でも確実に空気は変わった。いつもの空気だ。
どうやら体裁を保つ事ができたようだ。VIVA!俺。


不安から一変、社会派な顔で『報道ステーション』を見ながら
ご飯を食べているとCMに突入したのだが…


从 ‘ 。‘) <誕生日なのに入ってくれないの?


あーやのスカパー誕生日限定のCMだ。
これ以上ない最悪のタイミング。
ああ、入るさ。金さえあればいくらでも入ってあげたいさ。
そして書かないけど祝いまくりさ。


CMが流れた瞬間、私は肩を震わせた。親も何故か震えていた。
最初よりも重い空気に包まれる茶の間、もう逃げ出したかった。
あくまでクールに装いながらもガッツキ犬食いして
その場から立ち去ろうとすると今度はエプソンのCMが…
もう親の顔は見れなかった。


部屋に戻り一息ついて箱の中身を開けてみた。
羽の大きさや作りの細やかさ、とても賞品とは思えぬ作り。
着心地は悪くない。というか、いろんな意味で熱かった。
やはり相応の勇者でないとポッポは扱えないという事なのだろう。
それを裏付ける言葉も各パーツの注意書きに書いてあった。


フード:被ったままお休みにならないでください
      窒息等思わぬ事故の原因となります


ショール:かけたままお休みにならないでください
      窒息等思わぬ事故の原因となります


羽:つけたままお休みにならないでください
      窒息等思わぬ事故の原因となります


パジャマと銘打ちながらそのまま寝ると窒息する
可能性があるというこの破壊力。あぁ恐ろしい。
羽ですら窒息の可能性があるのだから素人は近寄らない方がいい。


そしてさすがに窒息の可能性が無いが
危険の可能性を秘めているのがこちら。


スリッパ:履いたままお休みにならないでください
      思わぬ事故の原因となります


スリッパの事故。
一体どんな事故があるというのか想像もつかない。あぁ恐ろしい。



この最強の装備を身につけてライヴに挑んだら
間違い無く私は空を飛べるだろう。
だが、死ぬ確率は跳ね上がるし、
警備員から翼をもぎ取られる可能性も高い。


さて。どうしたものか。