『神の手、奇跡の手』

あの人が育った空気を少しでも感じたくて、
営業エリア分けのあの日私は奈良への営業を志願した。
あれからもう三年以上。だけど、昨日の事のように憶えてる。


毎日奈良に営業に出掛けては道行く人を目で追っている。
いつもあの人を探してた。
奈良の空気を感じたかったのは嘘じゃない。
でも本当に望んでたのはあの人に会えるんじゃないかという偶然。


それは奇跡でもありえない確率。でも別に十分だった。
少しでも可能性があるという事実、それだけで心が踊った。
加護建送のトラックを偶然みかけたときは興奮して体中が震えた時もあった。
あの人に会ったら何を話そうかなんて考えていない。
私にとって彼女は神そのもの。話せるはずもない。
ただ偶然という夢を見ているだけで満足だった。


明日。私は神と奇跡の二人と握手します。


偶然じゃなく必然。
今、嬉しさなんて微塵もない。
ただひたすらに怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


私にとって加護亜依という方は全ての対象だった。
神、愛、恋、尊敬…。
どのベクトルも同じ大きさだと思っていたけど、
握手が近づくにつれてどの感情が1番大きいのか知った。『GOD』だ。
タワレコでは神が「あなたは何言ってくれるのかな?」
言わんばかりにlistenモードだったという。
今回の千里中央は1500人。タワレコとは違い高速モードは必至だが、
それでも加護さんは耳を傾けてくれるだろう。で、


神 相 手 に 何 を 言 え ば い い ?


「頑張ってください!」お前がナー。
「W単独コン待ってます!」事務所にいってね。
「作詞・作曲の歌を期待してます!」はい事務所ね。事務所。
応援してます?好きです?愛してます?
安い。どれも安すぎる。


別に自分の気持ちを素直に伝えればいいだけなのは判ってる。
だけど加護さんが“期待してこちらを見てるなら”、
期待に応えなきゃいけない。それが信者としての使命。
現時点になってもまだ思いつかないけどきっと何かあるはずだ。


加護さんばかり書いてるけど、勿論辻さんに対する
気持ちも全く変わらない。


タワレコでは100人を超えた時点でぐったりしていたという辻さん。
握手が苦手なのは間違いないようだ。
(私を含め)おっさんばかり相手してれば疲労度が増すし、
人見知りの辻さんがゼロ距離で人一倍気を遣ってるのだから結果は見えていた。


セルシーはタワレコの5倍は人が集まる。
フットサルでは例の過呼吸で途中退場したらしいし、
できれば握手会なんてキャンセルして欲しい。加護さんと一緒に。


辻さんに話す言葉もまだ判らないけど、
『癒し』というテーマだけは決まっている。
握手で疲れきった心を笑いで癒したい。
握手の時に“ネタ”を披露する奴などマジヲタとは
認めない人間だったけど、今は少し違う。
ののは笑顔が1番。彼女の心が少しでも癒されるなら私はなんだってやる。
もし外してしまえば死あるのみ。



私の名はでんでん。
あいぼむ信者でのの右翼、誰よりもダブルユーを愛する漢。
後数時間で間違い無く私は生まれ変わる。
神にもっとも近い男、それとも虫けらか…。