『サクラ舞い散る季節の頃には』

あの頃の記憶が甦る。
本気を出せば何だってできると思ってたあの日。
先生だって「やれば出来る子」と言ってくれていた。
俺は無敵だった―――――。



高校生の頃、ギター&フォーク部に所属していた。
ロック派閥とフォーク派閥に別れていたが勿論俺はロック派。
入部当時は日本人ばかり聴いてた。
“異国のロック=ボンジョビ”みたいに思ってる視野の狭い子だったが、
仲間や先輩から次々と本物の洋楽を聴かされて凄いショックを受けた。
そして更にロックが、音楽が大好きになっていった。


どっぷり浸かった一年後。
とにかくバンドを組んで歌ったりベースを弾いたりするのが楽しかった。
そんな時にクラブ顧問から話が持ちかけられる。


「子供達の前で演奏してみない?」 と。


勿論、俺達はYES!と即答した。
大好きな音楽を子供達の前で披露できる。
この感動を伝えてあげたい!音楽を好きになって欲しい!
おれたちならきっと出来る。そうできるはず!
俺達は無敵だった―――――。


そして当日。


「子供達の前で…」とは言われたが具体的な内容は
一切聞かずに現地入りした俺達。
とにかく2曲演奏させてくれるというという事だけ頭に入れていた。
ステージ(現地)は地元の野外広場。
『子供フェスティバル(曖昧)』とかいう集まりで多くの親子で賑わっている。
屋台やPTA絡みチックなお店もあって結構な規模だ。


この日の予定曲は『Jupiter(B-T)』『恋のマジック〜(すかんち)』の2曲。
そして俺はヴォーカル担当。
洋楽だロックだ語ってもキメる時は安定&キャッチーに攻める無敵な俺達。
『Jupiter』で酔わせて『恋の〜』でドッカーン!の段取り。
だが何か足りない。
子供沢山→喜ばせたい→ドラえもんドラえもんテーマ曲!!
よしこれで掴みはOKだ!という事で急遽1曲増やす事にした。
ドラえもんをやった事などないし、
音大レベルだったキーボード奏者以外は技術的にも不安要素がありすぎた。
それでも俺達は誰一人躊躇うものなどいなかった。
俺達は神の子だった―――――。


ステージに立ち、音合わせをする俺達。
注がれる子供達の好奇な眼差し。
パパやママも暖かい目で俺達を見守ってくれている。
大丈夫さ。今なら空だって飛べるはず。
メンバー達と顔を見合わせた。みんな笑顔でいいツラしてやがる。
準備は整ったようだ。OK!よしやるか!


「えー皆さんようこそお集まりくださいました!
フェスティバルしちゃってる皆さんの心を更にカーニバルしちゃいます!
それでは歌います。みんなも一緒に歌ってネ!」


チャラララララ♪チャラララララ♪チャラララララ♪チャラララ♪
チャラララララ♪チャラララララ♪チャラララララ♪チャラララ♪ 


ヴァンナこといいNA!! 出来たらいいNA!!
あんな夢ぇ!こんな夢!一杯あるぅぅけどぉぉ〜〜〜!!

アゥッ!!



無駄にシャウトを効かせて完全にメタルを履き違えたヴォーカルに
唸るベース。歪むギター。心筋梗塞を誘発する不規則なドラム。
イントロのシンセで「あっ!」と驚き笑顔になってた
子供達の顔が見る見るうちに苦痛に歪んでいく。
パパやママは鬼の形相をする人や
哀れな目をこちらに向ける人など様々だったけど、


誰一人として神の子である俺達を歓迎してない事だけは判った。


子供達に音楽を好きになって欲しかった…。
ロックの素晴らしさを届けたかった…。
俺達が現実に引き戻された瞬間だった。
そして俺はドラえもんが二度と歌えない体になった。




あれから長い年月が過ぎ私は大人になった。
己を知り、妥協や打算や覚え、笑顔を作る大人になった。
無難で平穏な毎日を過ごしてたらあの人達に出会った。
加護亜依さん。辻希美さん。
次々とこれまでの常識を打ち破るそのお姿は
神と奇跡そのものだった。
二人に一生ついて行こうと決めたあの日から私は再び無敵になった。


加護さん辻さんの為なら何でもできるし、
敬愛する気持ちも誰にも負けない。


先日『Wハワイツアー』の申し込みが締め切られた。
私は時間もお金も無い為に応募すらしていないが、
あいのの信者としての気持ちは更に強くなった。
ワイハ募集の後は『FC限定イベント(加護亜依さん)』の募集が始まった。
前回と違って休日(土曜日)開催。大喜びで申し込んだ。
友人からは「外れたらどうするの?」と心配されたが、
外れる事など微塵も考えていない。
ハワイと違いこちらは完全に運次第。
神も仏も信じないけど、私の加護さんに対する想い(念)がこもった
ハガキがその他のDDもどきに負けるはずがない。
運も私を味方するに決まってるという根拠の無い自信があった。










あの頃の記憶が甦る。
本気を出せば何だってできると思ってたあの日。
でももう逃げない!
あいぼむだって『辛』に一本線を足せば『幸』になると仰ってる。
幸も不幸も紙一重
当日は在宅で誰よりも加護さんを慕ってやる!慕い倒してやる!
大丈夫。俺は無敵のままだ――――。