『風と共に温故知新』〜前編〜

まだ残暑が厳しい9月
景色が歪むスピードの中 見えない力を受けて走り続ける
グリップからそっと左手を離し大きく手を広げてみると
指の隙間を風が擦り抜けていく


風になりたい


誰にも縛られない自由な風になりたい
いろんな人を観たり景色や季節を感じたい
風になって世界中を旅したい


いや、むしろ奈良を旅したい!


加護さんの歩んだ軌跡を感じたい。
どんな景色を見て、どんな生活を送っていたのか
神童であった頃の加護さんの面影を見つめたい。(not ストーカー)
とにかく奈良奈良したいんだ!
行かなくちゃ!奈良が俺を呼んでる!



はい。徒歩という二足歩行式の風に乗って行って来ました奈良。
某事件があってから一度ピスと旅したことありますが、
『2.28.聖地巡礼〜何度でも』
今回は一人スナフキンとなって熱っちい地球を冷ましてきたのでその体験をば。


我が家からは電車、電車、また電車と乗り継がなきゃ
辿り着かない聖地・大和高田市
加護さんが奈良からよく大阪市内に買い物に出かけたと
思われるルートを遡って電車に揺られカッタンコットン。
聖地に近づくにつれ電車の窓から見える緑が多くなっていく。
大和高田から数駅前になるともう緑一色。役満な景色が広がる。


車内には老婆と子供二人がポツリと座っていた。
「お家はどこなの?」と子供に訊ねる老婆と
無邪気に家の住所を教える子供達。どうやらお互いご近所さんらしく、
楽しい会話が電車内で繰り広げられていた。(OUT 俺様)


そんなやりとりを見てる内に大和高田駅に到着した。
のどかなイメージがあったけど冷静に景色を眺めると結構都会。
調べると奈良県で人口密度NO1だった。全国82位!?あら大都会。
軌跡を巡りたい、奈良の風を感じたいと降りたはいいけど、
大して目標も定めてなかった私は…


いきなり路頭に迷った。


吉野家が好きな奴と大和高田市民は皆同志だと思ってたけど、
実際、高田の同志達に声を掛けようとすると恐怖が湧いてきた。
いくら聖地とはいえ老若男女いて、加護さんに好意を抱いてる人も、
嫌悪感持ってる人もいる。そんな人たちに向かってランダムに声掛けられない。


「スンマセン加護亜依さんって知ってます?あっ当然知ってますよネ!
ボク彼女が大好きなんですよ!むしろ崇拝って感じ?
思い出に浸りたいんで彼女がよく訪れた場所とか知ってたら
教えてくれない☆カナ?あっ、決して怪しい者じゃないヨ!」


通報紙一重のアプローチ。
いくら難波のハンカチ王子(黒)の私でもこんな声掛け続けたら
加護さん復帰前に私が牢屋に謹慎させられてしまう。
とりあえず以前訪れた時にダブルユーのポスターが貼ってた
ガソリンスタンドを目指すことにした。


前回訪れた時はカーナビ任せで全く憶えていないガソリンスタンドの場所を
汗ばむ日差しの中、ひたすら探し続けた。
目的が明確になったのだから道行く人に場所を訊ねればいいと思うが、
ダブルユーのポスターが貼ってあるガソリンスタンド知ってる☆カナ?」
とは聞くのが超恥ずかしかった。
以前の私なら恥ずかしがる所か、むしろ貴族が愚民に命令するかの如く
堂々と質問していたはずが何てことだ。
長引くダブルユー不足の為にココロが小市民になってる。
一言でいうとビビリしちゃってる。
『ガソリンスタンド』の場所だけ聞くとか他にも方法はあるけど、
かつては難波の狂犬と呼ばれた右翼のオレ様に妥協の文字はなかった。(小市民)


もう意地だった。
ガソリンスタンドを見つけて心の給油をするのが先か、
気持ちが折れて泣きながら家に帰るのが先か。
人通りを少ない道を抜け、遠くを夢遊病者のようにトボトボ歩いてると、
道路の反対側のガラスに浮かんだネ申と奇跡の二人のお姿がっ!
遂に発見!KING OF ガソリンスタンド!金田石油! 


前回訪れた時は閉店だった金田石油だが、
今日は65歳くらいの夫婦らしき男女が忙しそうに働いていた。
次々と乗り入れ給油されていく車たち。それを愛想よく捌いていく店員さん。
二足歩行の私が給油無しでRIDE ONするには
余りにも敷居が高い景色に見えた。


「俺は加護さんが好きだ。金田石油が好きだ。それでいいじゃないか!」
そう心の中でブツブツ唱えながらその場を去った。
心が折れたんじゃない。金田石油が眩しかっただけ…。

心身共に疲れ果てた私は休憩場所を求めて彷徨い歩いた。
すると地元民がたむろしてそうな通好みなお店を発見。
涼をとりたくてドアを開けるとそこにはっ!……