『風と共に温故知新』〜後編〜

<前回あらすじ>
つんくカジュアルディナーショーに乱入し、
彼に加護亜依さんの早期復帰を直訴するでんでん。
「オマエにはまだロックが足りん!心や!心で加護を感じるんや!」
と諭す新婚の寺田。
つんくの言葉に胸を打たれたでんでんは加護さんの魂を感じる為に
故郷・大和高田へと旅立つことを決意。
STK入門生として金田石油を華麗にストーキング完了した
彼が一息つくために入ったお店がっ!


ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは三人の加護さん。
いや、正確には三枚の加護さんうちわだった。
ツアーグッツなど飽きるほど見てきてるが、
奈良という場所と今の加護さんの現状を知りつつ
三枚のウチワを掲げてるのだから只者ではないのは容易に想像がつく。
高鳴る胸の鼓動を抑えつつそっとテーブル席に腰掛ける。


モダンな雰囲気が漂う店内には紳士風の客が一人。
他に加護さん縁の品物が無いか辺りを見渡していると、
「お兄さん何にしましょ?」と女性の声が。
カウンターの奥から私の心を射抜くような鋭い眼差しで見つめる女性。
歳は50歳前後だろうか。幾多の戦場を駆け抜けてきたであろう
雰囲気を出していた。
(例:シティハンターでいう海坊主の喫茶店員)


怪しまれてはいけないと慌ててメニューを手に取り
適当に中華定食を注文する私だったが、
「それは時間かかりますよ。焼きそばが早いですよ。焼きそば。」と
強引にメニュー変更を迫られる。
勿論逆らえるはずもなく速攻で焼きそばに変更した。私は偉大なYESマン。


調理に集中してもらってる隙に店内観察を再開した。
店のメニューや広告が飾られてるだけで他にはそれらしき物は…と思ったら
カウンター奥の食器棚に何かが見える。


色紙だ。


ソレは私が座った位置からしか気付く事ができない角度に置いてあった。
しかも真横に立られており誰のサインか判らなくなってたが、
もう誰のサインとか考えるまでもなかった。加護さんだ!加護さんに違いない!
ここでガッツクのはチェリーボーイ。
弾けるビートを抑えつつ私は先客である紳士の男が帰るのを待った。
待った、、、待った、、、待った、、、帰った!!


ついにあいぼむ信者としての真価を問われる時がきた!!
数え切れない家を飛び込み営業した事も、
おばちゃんに言い寄られて泣きそうになった事も全てはこの瞬間のため。
まずは「あのウチワ加護さんですよね?好きなんですか?」と
震える声を押し殺し思い切って質問した!してやった! 
すると返事は…


「ああ。あれね」


この一言だけ。後は恐ろしい静寂が待っていた。
なんだ?何がいけなかったんだ?私は自問自答しまくった。
「『加護さん』じゃなくて『加護ちゃん』にすべきだったろてめぇ!」
「はぁ!?俺が『加護ちゃん』なんてフェイクでも呼べるかボケがっ!」
自問自答というより心の中で泣きながら自分と殴りあってた。
そんな感じで自分と葛藤してると女海坊主いや、女店長は調理しながら


加護ちゃんの事、好きなの?」


聞いてきてくれた!
私はこれまでの緊張から解き放たれたせいか一気に言葉数を増やす。
「ええ好きです!大好きです!人生の道標です!
 今日も彼女と縁のあった場所に浸りたくて大阪からやってきました!」


私の堰を切った言葉に目を丸める女店長。
やってしまった…。チェリーすぎる言動、どう転んでもストーカーか
要通報人物にしか思われない。
恐らく半分泣き顔になってた私に「大阪のどの辺?」という質問が。
聞けば女店長も昔大阪に住んでいたらしく、
しかも私のご近所さんだったという事で思わぬ共通点が見つかった。
雑誌関係者などでは無いのが判った為か、
警戒心を解いていろいろと語りだしてくれた女店長。


まずウチワは加護さんのお爺ちゃんが店に持ってきてくれたという。
食器棚の色紙について訊ねると「ああ、あれね。見る?」と、
私の目の前に持ってきてくれた。


サインはやはり加護さんのものだった。
デビュー当時のものでこれもまたお爺ちゃん経由で貰ったという。
感動に震える私の横で


「これKAGOという文字以外は事務所が書いたんちゃいまっか?」


と女店長。見るとなるほどKAGO(加護)という文字と
その他の筆跡が余りにも違いすぎた。
それにしても人を喜ばせといて突き落とすこの女店長はやはり只者ではない。
ついでにサインを何故隠すようにしまってるのか聞いてみたら
汚れるのが嫌なのと、このさりげなさがいいとの返事が。やはり只(以下略


加護さんの謹慎については
「あの子はトントン拍子に行き過ぎたのよ!周りの人にどれだけ迷惑かけたか、
周りの人のお陰で今の自分があるのか思い出して反省したらいいのよ!」と
語尾を荒げ厳しい口調で叱りつける女店長。
予想外の言葉に面食らうもただただ同意した。
その上で私はファンは彼女を待ってる。 帰ってきて欲しいと付け加えた。


厳しい口調のあとにポツリポツリと当時の加護さんの
思い出を語りだしてくれた女店長。
加護さんが小学校低学年の時に加護家とご近所さんだったらしく、
よく家に「おばちゃんお茶頂戴!」と遊びに来たという。
当時から身長は低くクラスでも前から2、3番目でランドセルが大きくみえた。
通学用に使うからと少し広くした田んぼ道をお友達と手を繋いで通う。
そんな子供の頃の加護さんの姿を思い浮かべながら語ってくれる
女店長さんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
さっきの強い言葉も親心ゆえ。
私も涙を必死に堪えて思い出話に聞き入った。


夏でも加護ちゃんって赤くなるだけで黒くならないのよ。
でも汗は一杯かいちゃって。
あの子って昔から髪の毛が細いの。ほら(ウチワを指差す)。
だから汗かくと前髪とか大変で…ウフフ…。


生まれて初めて一瞬で感動から殺意に感情が切り替わった瞬間だった。
でもこれも親心ゆえと心を落ち着かせる。
この後は更に心オープンにしてくれたのか自らの十代と重ねて、
今回の件を語り始める
「あの歳は仕方ないのよ、自分も勿論吸ってたし一通りのことはやった
一通りってなんだよ女店長さん!一通りって!ってか肯定してはりますやん!


話を十分すぎるほど聞かせて貰った私はお礼を述べ、店を後にすることにした。
別れ際「こんだけ収穫あったら十分やろ」と女店長さん。
そして「今度加護ちゃんに会う事があったら熱心なファンが
あんたを待ってると伝えとくで」と不敵な笑み。


店を後にした私は思い返す。
加護さんのサイン。加護さんの小学校時代。
女店長の不敵な笑み。そして店にひっそり置かれていた千羽鶴…。